デ・ステイルとイス、うさこちゃん

デ・ステイル(デ・スティル)はオランダに興った芸術運動で、同名グループから同名雑誌が刊行された。ステイル(Stijl)はオランダ語で様式(Style)を意味する。


活動理念は、主要メンバーであるピエト・モンドリアンの作品群『コンポジション』を見れば一目瞭然であると言えるかもしれない。対象となる事物の本質を極限まで追求した結果、ついに水平、垂直に交差する黒い「直線」たち、それらが織りなす長方形の隙間に現れる赤、青、黄色の「平面」たち、この純粋を極めつくした要素にこそモンドリアンは真実を見いだした。


ヘーリット・リートフェルトはこれを見事に変換し、有名な『赤と青のイス(レッドアンドブルー)』として三次元空間に投影した。脚や肘掛けという「線」、そして背と座、各フレームの断という「面」、この2つの大要素に分け、線は黒く、面は赤、青、黄色に明確に塗りわけている。

この作品における色づかいは、イスとしての機能があまり考慮されていないものであったが、のちに発表された『ミリタリーチェア』は背面と座面を白、各フレームを黒と2色で塗りわけ、身体を受けとめる面、それを空間上に支える線という2要素を、さらに厳格に区別した。


デ・ステイルの主導者テオ・ファン・ドゥースブルフは、ドイツのバウハウスを訪れ、同校を支配していた表現主義を徹底的に批判し、同校の学生たちに多くの追従者を生むにいたった。

とりわけ同校の第一期生で最年少であったマルセル・ブロイヤーは、リートフェルトのデザインに強烈な影響を受けているように見える。ラス製スツール『ti 1 a』(最後から2つ目の写真)は『赤と青のイス』の翻案のようだし、『子供用イス』(写真手前。奥にti 1 aも見える)もまるで『ミリタリーチェア』の複製のように見える。

この思想を技術的に発展させたのが、日本ではブロイヤー作品として最も有名な『ワシリーチェア(クラブチェア)』だと言えるだろう。ここでは素材の違いによりあからさまに線と面とが区別されており、これまで中性的要素をもっていた肘掛けは後者にはっきりと組みこまれた。ただし線要素は、柔軟な屈曲を可能とするスティールパイプが素材に採用されたため、モンドリアン以後の志向とは異なり、縦横無尽にはしる曲線的なループに変更されている。


デ・ステイル運動はオランダに興ったが、同国出身の絵本作家にディック・ブルーナがいる。ブルーナデ・ステイルの影響を直接受けているという証言は見あたらないが*1、代表作『うさこちゃん(ミッフィー)』を見れば何らかの関連が推測される。ユトレヒト中央美術館ブルーナは、リートフェルトと同等の待遇を受ける栄誉に浴している。

*1:8月4日追記。本人がデ・ステイルの影響を受けていると語っているそうな。
【地球の歩き方】ミッフィーの故郷オランダ・ユトレヒトを訪ねて