怒ると叱るは違う

というような言いまわしは80年代には聞かれず、90年代からたびたび聞くようになったと思うんだけど、典拠が分からないし、意味もよく分からない。


【goo辞書】は『大辞林』を引いて語釈を3通り載せている。

(1)(目下の者に対して)相手のよくない言動をとがめて、強い態度で責める。
「子供のいたずらを―・る」

この通りなら「怒る」とは意味が違ってきているので上記の言いまわしに根拠があることになるが、ただ典拠が書かれていないので、いつごろから使われ始めたのかが判然としない。【Yahoo!辞書】の引く『大辞泉』もほぼ同様の語釈で、やはり出典はなし。

(2)怒る。
「猪のししといふものの、腹立ち―・りたるはいと恐ろしきものなり/宇治拾遺 10」

ここで早くも「怒る」と同義とされてしまった。出典は13世紀成立の『宇治拾遺物語』。「腹立ち」と続けて述べられていて「怒る」との違いは見いだせない。

(3)陰で悪口を言う。
「あのやうなしわい人はあるまいと申して、皆―・りまする/狂言・素襖落(虎寛本)」

狂言室町時代に流行しているので14〜15世紀ごろかな。これも確かに「怒る」とは違っているけど、かなりネガティヴな用法だ。上記主張者は怒りを悪し、叱りを善しとしているので、その解なら「子供のいたずら」を子供のいないところでそしることを善しとしたことになってしまう。それって、どうなんだろう。


正直なところ、上記主張者の思いえがく「叱る」の意味が、その言いまわしを初めて聞いたときからずっと分からないままだ。ほんとは「諭す」って言いたいんじゃないの。でも、気付いたら誰もかれもがそう言っている。