今泉恂之介『関羽伝』

今泉恂之介『関羽伝』は2000年11月、新潮選書から発行されているが、わたしが買ってきて読んだのは今年になってからのこと。全体の構成としては、関羽の生まれてから死ぬまでの生涯を『三国演義』に沿ってたどりつつ、そのつど正史や民間伝承を参照するという形。著者は鄭州大学で教鞭をとったこともあり、現地の郷土史家との交流も広く、関羽ゆかりの地ならではの伝承もいくつか紹介されている。『勧進帳』の弁慶イメージが関羽に重なることを示唆しているのには好印象。

ただ良書かと聞かれれば首肯しがたい。決して悪書ではないのだが、内容があまりに中途半端としか言いようがない。たとえば、

関羽伝』p.24
本書では、関羽の生年を西暦一六〇年とした。日本の事典や研究書類には、関羽の生年を「不明」と書いているが、山西省の研究家たちは「あらゆる史料を検討した結果、一六〇年が最有力」としており、中には「それ以外には考えられない」という人もいるからだ。第一の根拠は『関帝誌』の記述で、他の史料にもこれに符合する内容が多いという。

いやいやいや、こちらとしては「あらゆる史料」がどういう史料なのか、「検討した結果」がどういう結果なのか、そちらのほうが知りたいんだ。『関帝誌』にどういう記述があり、それが他の史料とどう符合しているかを知りたいんだ。そこをはしおって結論だけ言われても困るんだ。

本書では一事が万事この調子で、こちらがいちばん気になっているところをスルーしてしまって、どうでもいいところに字数を割いている。もっと深く知りたいと思ったところは知ることができず、そんなこと知らなくていいよと思われるところは知らされ、かといって著者の知識がまるきり浅いのかといえばそれなりの深みはあるように読みとれるので、余計にもどかしい。一般向けの新書だからとかそういうレベルの話じゃなくて、持ってる情報の見せ方がつたなく中途半端なんだ。

書かれている内容だけで判断するならば、非常に退屈な、つまらない本。買わないほうがいい。駄本。くそ。