藪の鶯

初出は1888年

【青空文庫】藪の鶯
服「ですからこのごろは学者たちが。女には学問をさせないで。皆な無学文盲にしてしまった方がよかろうという説がありますとサ。少し女は学問があると先生になり。殿様は持たぬといいますから。人民が繁殖しませんから。愛国心がないのですとサ。明治五六年ごろには。女の風俗が大そうわるくなって。肩をいからしてあるいたり。まち高袴(たかばかま)をはいたり。何か口で生いきな慷慨(こうがい)なことをいって。誠にわるい風だそうでしたが。このごろ大分直ってきたと思うと。また西洋では女をたっとぶとか何とかいうことをきいて。少し跡もどりになりそうだということですから。今の女生徒は大責任があるのでござりますと。あのセクスピアが顔の皮の厚い女は。男の女らしいのと同じことで。好ましくないものだと申しましたし。また第一ナポレオンは。仏国を改良するには善良の母だと申しました。だから女にもしも学問をさせなければ。なかなか善良の母も出来ますまいし。学問をさせれば。厚顔(あつかお)なおしのつよい女が出来ますから。何でも一つの専門をさだめて。それをよく勉強して。人にたかぶり生いきの出ないようにして。温順な女徳をそんじないようにしなければいけません。そうすれば子孫も才子才女が出来て。文明各国に恥じない新世界が出来ましょうと。ある方がおっしゃいました。

ちなみに、今年は2008年。*1