程昱と干し肉

【漢ネット・ヤマダ】程昱の「人肉」疑惑について

わたしもこの部分を読むときはちょっと引っかかりを感じたんですね。原文だとこんな感じですが。

三国志』程昱伝注
世語曰:初,太祖乏食,昱略其本縣,供三日糧,頗雜以人脯,由是失朝望,故位不至公.

まず「頗」という字ですが、これ一字だけで「少しだけ」とか「かなり」とか、まったく反対の意味があります。どちらの意味で読むかは読み手が文脈で判断するしかないです。今回の場合、穀物でさえ不足してる状況なんですから、そんなに肉は多くなかっただろうと思われます。なので「少しだけ」と読んだ方がよさそうです。

あと「人脯」という言葉もちょっと単純でなくて、普通は「人間の屍肉を干したもの」と読まれるんですが、「他人の所有する干した獣肉」と読めなくもない。しかし、これはそもそも略奪によって手に入れたものなんですから、他人の所有物であるのは当たり前。わざわざそんなこと書かなくても分かりきってるわけです。ここはやっぱり普通に「人間の屍肉を干したもの」と読むべきでしょう。

この事件の時期ですが、黒耀竜さんは194年や199年とする説を引いて疑問を呈されてますが、曹軍は挙兵当時からずっと食料不足なので、わたしは何年のことであっても不思議でないと思います。

で、この記事自体の信憑性ですが、わたしは限りなく低いと見てます。『三国志』の注から『世語』の引用だけを抜きだしてみると分かりますが、たんなる事実の摘示の部分はとくに問題ないですが、面白エピソード的な部分はちょっと面白すぎるんですね。ぶっちゃけ奇想天外荒唐無稽。たとえば劉曄が明帝を「秦の始皇帝漢の武帝に似ている」と評したというエピソード。ぜんぜん褒めてないです。始皇帝武帝も莫大な浪費と動員で領民を苦しめた暴君なわけです。どんなに似てるといっても、ときの皇帝を論評するのに引きあいに出していい名前じゃないです。こういう『世語』に載ってる面白すぎる話はちょっと眉に唾しておいた方がいいと思います。

『世語』を話半分に聞くとしたら、ほかに傍証があるわけでもないし、そもそも『世語』のこの記述自体に具体性が欠けているわけで、そうするとこの話を前向きに取りあげる理由はいかほども残らないなという気がします。

三国志集解』程昱伝集解
ちょwww『世語』フリーダム過ぎるだろwwこんなん信用できるかよwwwうぇwwwwww

「或るひと」も言うておられる。