牛を引きずる

さっき初めて気がついたんだけど、『三国志』のちくま訳本だと、許褚が

一本の手で牛の尾を逆にひきずって〔賊の方へ〕百余歩歩いた。

ってことになってるんだな!すげぇな!


いや、それは別に誤訳ってわけじゃないんだけど、読者のなかには、許褚が牛を天地にひっくりかえして尻尾をつかみ、牛の背を地面にずるずる擦りつけながら引っぱったみたいに思っちゃう人が出るかも。もちろん、ここは牛を退歩させたという意味なので、誤訳ではないけど誤解を招きやすい書きかただと思った。


むかしNHKだかどこだかのTV番組でやってたんだけど、牛というのは身体構造的に退歩できないんだそうだ。古代中国のひとびとは日常的に牛と親しんでいたので、許褚が尻尾を引っぱって力づくで牛を退歩させたことにさぞや驚いたことだろう。でも牛になじみのない現代日本人はこの逸話を聞いてもどこがどうすごいのか理解できないはず。退歩できないことを知らなかったら、なんでもない当たり前の叙述でしかないもんね。