光武帝紀13 「王郎を下す」

後漢紀』抄訳の第十三回目。劉秀をさんざん苦しめてきた王郎ですが、ついに居城に追いつめられます。そして劉秀は新たな戦いの場へ。


更始帝*1尚書*2謝躬*3に六人の将軍を率いさせ、王郎*4を討伐させたが、陥落させることができなかった。王郎が将軍を派遣して信都*5を攻撃させると、信都の大姓*6である馬寵*7らは城門を開いて引きいれ、太守*8宗広*9と武固侯*10李忠*11の母や妻を捕縛した。そして親族らに李忠を呼びよせるよう命じた。このとき馬寵の弟が李忠のもとで校尉*12を務めていたので、李忠は即刻、これを呼びつけ、恩義に背いて城を明けわたしたことを責めなじり、そのまま彼を殴り殺してしまった。諸将らはみな驚いて、「家族が奴らの手中にあるというのに、そいつの弟を殺してしまうとは、なんと乱暴な!」と言った。李忠は言った。「逆賊を見のがして処罰しない、それは裏切りです。」

劉秀*13はそれを聞いて立派なことだと思い、李忠に「いま我が軍の集結が終わった。将軍は帰って老母や妻子を助けなさい。きみ自身で役人や民衆を集めて、家族を連れ戻したものに一千万銭を与えるのがよかろう。(家族が)戻ってきてから、私は取りかかろう」と言った。李忠は答えた。「明公*14の大恩をこうむったうえは、命をかけて報いる所存。決して身内を顧みるようなことはいたしませぬ。」

王郎の任命した信都王*15が後大将軍*16邳彤*17の父や弟、それに妻子を捕縛し、(彼らに)直筆の手紙を書かせて邳彤に呼びかけさせた。いわく、「降伏すれば爵位、降伏せねば皆殺しだ。」邳彤は涙を流しながら返信を出した。「君主に仕えるものは家族を顧みないものです。邳彤の親族が今まで安心して信都で暮らせたのは、劉公*18のおかげでした。公はいまや国家のために戦っておられるのですから、邳彤はもう、私情を抱くことができないのです。」

劉秀はそこで左大将軍*19の任光*20に軍勢を預けて信都を救援させたが、任光の兵士らは途中で逃げて王郎に降伏してしまい、(任光は)なすすべなく帰ってきた。ちょうどそのとき、更始帝の派遣した将軍が信都を陥落させ、王郎軍を駆逐したので、李忠・邳彤の家族は一人残らず助かった。劉秀はそこで李忠を信都に返して太守の職務を代行させることとし、郡内の裏切りもの数百人を処刑させた。

劉秀は東へ向かって鉅鹿*21を攻撃した。まだ陥落する前、耿純*22が「鉅鹿を守っている兵士どもは疲れておりますが、奴らの城を滅ぼしたところで、まだ邯鄲*23が残っているのです。精鋭部隊を率いて邯鄲を攻めるに越したことはありません。王郎が処刑されれば、鉅鹿など戦わずして頭を下げてまいりましょう」と説得した。劉秀はそれを採用した。

夏四月、邯鄲を攻撃すると、王郎は杜威*24に節*25を持たせて(劉秀の)陣中に送ってきた。杜威は言った。「本当に、成帝*26の忘れ形見なのですぞ。」劉秀が言った。「たとい成帝が生き返ったとて、それでも天下は得られまい。ましてや劉子輿の偽物ではな!」杜威はしつこく降伏を申し入れ、一万戸の侯(の身分の保障)を求めた。劉秀が「一戸でもだめだ。身を守るすべを考えた方がよいぞ!」と言うと、杜威は「邯鄲は片田舎ではありますが、力を合わせて城を守り、長い月日を重ねてまいりました。それは君臣ともに我が身かわいさで降伏するつもりが絶対にないからです!」と言い、別れを告げて立ち去った。

(王郎の)少傅*27の李立*28が寝返り、城門を開いた。五月甲辰、邯鄲を陥落させ、王郎を死刑に処した。劉秀は自分を誹謗する文書を手に入れたが、それをみんな焼きすて、「反側*29の諸君らを安心させてやろう」と言った。

*1:こうしてい。劉玄(りゅうげん)のこと。

*2:しょうしょれい。官名。書記長。

*3:しゃきゅう。

*4:おうろう。群雄の一人。当時、劉子輿(りゅうしよ)と称していた。

*5:しんと。郡名。

*6:たいせい。地元の名士、豪族。

*7:ばちょう。

*8:たいしゅ。官名。郡の長官。

*9:そうこう。

*10:ぶここう。「武固」を称号とする諸侯。

*11:りちゅう。

*12:こうい。官名。将校。

*13:りゅうしゅう。光武帝(こうぶてい)。後漢創始者

*14:めいこう。大臣を呼ぶときの敬称。

*15:しんとおう。信都国の国王。

*16:ごだいしょうぐん。官名。

*17:ひとう。

*18:りゅうこう。劉秀のこと。

*19:さだいしょうぐん。官名。

*20:じんこう。

*21:きょろく。郡名。

*22:こうじゅん。

*23:かんたん。県名。王郎の根拠地。

*24:とい。

*25:せつ。勅使に与えられる旗。

*26:せいてい。劉驁(りゅうごう)のこと。

*27:しょうふ。官名。皇帝の後見役。

*28:りりつ。

*29:はんそく。落ちつかない様子。もとは寝返りを打つことを言う。