客を犯罪者扱いする店

ちょっと、これはむかむかするんだ。

苦情学―クレームは顧客からの大切なプレゼント

苦情学―クレームは顧客からの大切なプレゼント

前から読んでた本。もうとっくに読みおえてたんだけど、ちょっと時機を逸して書けなかった。内容はまあ面白いし、実践の場で役立つと思うんだけど、以下の部分にだけは首をかしげざるをえなかった。

《実例》金券交換常習者


金券交換常習者とは、百貨店で利用できるあらゆる商品券を現金化することで、利ざやを稼ぐことを商売にしている輩または会社のことをいいます。


世の中はカード社会といわれて久しいですが、同時にほとんどのものが商品券化され、販売されています。その商品券はお礼や記念のギフトとして購入されます。百貨店の積み立てとして顧客を縛る手法にも利用されますが、金利という面で見たら、この低金利時代に群を抜いて高いというメリットがあります。また、カード会社の商品券もここにきて伸びてきました。面白いところでは「お米券」や「アイスクリーム券」などがあります。百貨店では使えませんが「医療券」なども考えられているようです。


さて、その商品券を一般人から割り引いて買う者がいて、それをまた販売する者もいます。そこでは映画券から航空券、バス券、新幹線券を中心に「百貨店利用券」も看板として販売されています。


その商品券を持参して店頭で安い買い物をし、釣り銭を求めてそこに出る利ざやを稼ぐ輩がいます。よく調査すると、金券ショップの社員だったりしますので慎重な対応が望まれます。それは、どこの店舗にも現れます。


ただ、一般の人には目をむくこともないと思います。なぜなら、素人はたくさん持っているといってもたかが知れています。いずれ底をつくのでしょうから、同じ売り場で何度も買い物をするようなら、軽く注意する程度でよいと思います。しかし、言葉は慎重に選び、「大変恐れ入りますが、少額ですので先ほどのお釣りでお求めいただけませんか」とお願いしましょう。それは、商品券にはその行為が違反であるとは書いてないのですから。



別章で細かく書きますが、百貨店の苦情対応に「勝ち」はないのです。商売とは、代金を払い商品を受け取る側と代金を頂戴し利潤を生む側の違いですから、売る側はどこかで一歩引いた立場になるのでしょう。


金券交換人にもプロがいるのです。ある店舗でそのプロと対面しました。目つきが鋭く、やや異様な感じがしました。その方はなぜプロかといいますと、どうも金券ショップに勤めているとの情報でした。要は自分の店で安く買い取った金券をいち早く現金化しその利ざやを稼ぐのです。精神的にはきつい仕事だと思います。


顧客情報で前任者から引き継いでいたので、その人物と初めて対面したとき、私は「お釣り銭に困りますので、商品券による少額の購入はおやめください」とはっきりいいました。相手はこちらを睨みながら、「どこに違反だと書いてあるのか」「前任のお客様相談室長は一日一回なら認めると約束した」と主張します。しかし、要は当店には迷惑がかかっているのですから、そこをはっきりいって、「勝手ですが、私が責任者になったので、今後はおやめください」と宣言しました。


あまりに頻繁に来るようになったことと、来店通報から現場に駆けつける間に使用されていることが多いので、総務の担当者と相談し「額面の一割以上のお買い物をお願いします」とポップを作る案が出ました。本部に確認すると、本部は現場の苦労を知らず報告だけで聞いているため、親身になって考えていません。その、ポップに関して決裁が下りないうちに、店舗では印刷も上がり、本部に付けると連絡したら、付けることまかりならんと指示がきました。この間約三週間、本当に役に立たない本部だと思いました。そうなると、相手に嘆願するのみです。


あるとき、金券屋が二歳くらいの男の子を連れてきました。交換人を追い返すために、食品課長と総務課長、保安係員と私で店外へ出しました。もちろん、手は触れません。そのとき、警察上がりの保安係員がいった言葉にはしびれました。「ねえねえ、見てごらんよ。この店に来るとお父さんはたくさんの人に囲まれて押し返されている。子供はしっかり覚えているよ。子供の教育に悪いよ」と泣かせることをいっていました。しぶしぶ帰ろうとした金券交換屋に食品課長から罵声が飛びました。「警察を呼べ」と。これは意味がありませんでした。すると、その金券屋は勢いよく戻り「呼ぶなら呼べ」と食ってかかりました。呼んでも来ないでしょうし、来たところで何の犯罪も成立しないことは明白です。


金券交換屋を追い返した後、売り場点検をしてみると驚くことがありました。キャンデーショップで一〇〇グラム百円のキャンデーを一個買うのです。大体三円から五円の買い物に一万円券を出して、お釣りを受け取ります。またあるときは、手作りのパン屋さんでクロワッサン一個を買います。値段は十五円程度、同じく一万円でお釣りを持ち帰ります。さらに深く聞いてみると、キャンデーショップの責任者はここ半年で百三十日くらい来ているとカレンダーに記録してありました。月によっては毎日来ていたことになります。由々しき問題ですが、ここでふと考えたのは、その派遣されている社員はなぜ上司や課長に相談しなかったのでしょうか。そのことで現場の声を聞くと、現場の意見に耳をあまり傾けない「ひらめ」課長であることが分かったのは残念なおまけでした。


結局のところ、そのとき以来しばらく来店しなくなりましたが、それにしても困ったお客でした。この金券交換屋の伏見様(仮名)とも、転勤先(距離は元の店と一〇〇キロ近く離れています)で再会することになります。


お断りの言葉は「お釣り銭に困りますので、商品券による少額の購入はおやめください」です。あるスーパーは、ポップで「商品券ご利用の際は、額面の半額以上のお買い物にご利用ください」とはっきり掲示しています。


最後に、金券ショップでは百貨店の売価に差がついているのをご存じでしたか。多くは立地条件が絡むのですが、ときとして変化があります。そんなところに、百貨店の格付けのバロメーターがあるのです。

▼ここでの教訓
  • 保安・総務・現場と連携して、懲りないでお断りを続ける。
  • 現場とは常に情報交換を図り、見かけたら連絡が入るシステムを確立する。
  • 「禁止」とはいえないので、他のお客様に聞こえるような大きめの声で「この程度の少額では使用しないでください、お願いします」と発する。

▼対応の仕方
  • パン屋の店長と画策し、クロワッサンを一個(十五円程度)買うといったら「どうぞお持ちください」と伝えて、料金をとらないことにした。すると、まったく来なくなった(違反ですが一策ではある)。
  • 一度買って再度来た場合は「先ほどのお釣りでご購入ください」と伝え、「なぜだ」といわれたら「釣り銭がなくなり、ほかのお客様にご迷惑がかかります」と伝える。
  • 一度買われてしまったら、後をついて回り、再度何かを買おうとしたら割って入り、釣り銭での購入をお願いする。
  • もし入口で会ったら挨拶をして、そこから完全に密着する。すぐ近くにいてもよい。


ああ、書き写していてむかむかしてきたー。なんだ、この対応は!


そもそも、わたしには消費者として商品券なるものの存在意義がまったく分からないんだけど、店舗側としては顧客をわが方に縛りつけようという意図のもとで発行しているわけだ。それは店舗側の都合にすぎない。ならば、いちど一万円と表示したからには一万円として扱わなければ筋が通らないだろう。一万円の商品券が、現金とどう違うというのか。それは相手が金券ショップの店員であろうとなかろうと関係がない。使う人間によって、たちまち商品券の価値が失われるとでもいうのか。おそらく顧客の縛りつけの目的を達せられないのが不満なのだろうが、それもまた店舗側の都合にすぎず、しかも商品券なる商品を企画した店舗側の企画の失敗ではないか。まさに言葉本来の意味で「身勝手」と言うべきものだ。それを店側の都合に合わぬからといって利用者をまるで犯罪者であるかのように扱うなど言語道断の所行と言わざるをえない。著者は商品券の利用がなんら犯罪にあたらぬことを知りながらやっているのだから、なおさら性質が悪い。まさしく「教育に悪い」とはこのことだ。悪質クレーマーとは他ならぬ著者のことではないか。


著者の動きに本部が制約を加えたのは当然だろう。本部はそれが顧客に対してはお門違いな要求であることは分かっているから、本心ではそうありたいとは思っていても言えないのだ。しかし一方、著者らの身勝手な考えにひとこと警告をすべきところ、なにも言ってないらしいことは監督責任というものではないか。あるいは商品券の利用者を犯罪者扱いするのは西武百貨店、あるいは業界全体としての総意なのか。


わたしは顧客を犯罪者のように見なす店はまっぴらごめん。お近づきになりたくもないね。もっとも商品券なんて使ったこともないし、それでなくても普段から百貨店とは縁がないけどね(笑)。ただ商売人の倫理としてどうなのよ、とは思うし、ヘタしたら人権侵害の疑いも差しはさまれるんじゃないか。まあ知ったこっちゃないけどね。死ねよ。くそが。