樹の女神

『捜神記』(原文)
廬江龍舒縣陸亭流水邊,有一大樹,高數十丈,常有黃鳥數千枚巢其上,時久旱,長老共相謂曰:「彼樹常有黃氣,或有神靈,可以祈雨.」因以酒脯往亭中.有寡婦李憲者,夜起,室中忽見一婦人,著繡衣,自稱曰:「我,樹神黃祖也.能興雲雨,以汝性潔,佐汝為生.朝來父老皆欲祈雨,吾已求之於帝,明日日中,大雨.」至期,果雨.遂為立祠.憲曰:「諸卿在此,吾居近水,當致少鯉魚.」言訖,有鯉魚數十頭,飛集堂下,坐者莫不驚悚.如此歲餘,神曰:「將有大兵,今辭汝去.」留一玉環曰:「持此可以避難.」後劉表袁術相攻,龍舒之民皆徙去,唯憲里不被兵.

『捜神記』(訳文)
廬江龍舒県の陸亭の水辺に一本の巨木があった。高さは数十丈におよび、その樹上にはいつも黄色の鳥が数千枚もの巣を作っていた。そのころ、日照りが長く続いていたので、長老たちは「あの木がいつも黄色の気につつまれているのは神霊が宿っているからなのかもしれんな。雨乞いをしてみよう」と相談し、酒と干し肉をもって亭へ出かけた。

李憲という独身女性がいる。夜中に飛びおきると、部屋のなかに刺繍の着物をまとった一人の女性がいて、「わたしは樹木の神、黄色の霊です。雲を呼び雨を降らすことができます。あなたは純潔を守りとおしているので助けてあげましょう。明くる朝、長老たちが雨乞いにやってきますが、わたしがすでに天帝にお願いしておりますので、明日の昼ごろには大雨が降るはずです」と言った。その時刻になると、言葉どおり、雨が降りはじめた。そこでほこらを建立した。

李憲は言った。「みなさまはここにいてください。わたしは川辺に住んでおりますので、いささか鯉をごちそういたします。」その言葉が終わるとともに、数十匹もの鯉が座敷のもとに飛びこんできたので、一座の人々はみな一様に驚いたのであった。

それから一年あまりがたったころ、女神が「いまに大いくさが始まりましょう。今日、あなたとはお別れです」と言い、「これを持っていれば災難をさけることができますよ」と玉環を置いていった。のちに劉表袁術がせめぎあいを始め、龍舒の民衆はみな逃げていった。ただ、李憲の村だけは戦火に巻きこまれることがなかった。

廬江をめぐって劉表袁術が戦ったというのは初耳だけど(孫策が陸康を包囲した事件のことか)、それはさておき廬江の李憲といえば後漢の群雄に同姓同名の人がいて関連があるのかなと思いましたよ。